
「そもそも“普通に”働けないのはなぜなのか――」
ずっとモヤモヤしていた疑問に、最近それなりの答えを見つけたように感じています。
私は大学時代に受けた知能検査でIQ117と診断され、「IQほぼ120あってもバイトすら続かない半ニート」という境遇に陥っているアスペルガー(ASD)です。
得意科目は偏差値80、苦手科目は偏差値30。
単科試験など知らないレベルのリサーチのしないっぷりを発揮して、いわゆる“Fラン”と呼ばれる大学を卒業しました。
本記事では、「思いついたことぜんぶ喋っちゃって、本当に言いたいことが伝わらない」「相手の反応が読めないから、多弁が止まらない」という私のリアルな日常を取り上げながら、ASDやADHDの特性がどうバイト先や職場で問題になってしまうのかを掘り下げます。
さらに、「作業がRTA感覚。みんなそれが楽しいんじゃないの?」という認識のズレや「作業がとろい人は視界に入れたくないってか一緒に仕事したくない」レベルの極端な仕事観など、おそらく発達障害ならではば独特(らしい)視点なども赤裸々に綴ってみたいと思います。
同じように生きづらさを感じている方、身近に発達障害がいて理解を深めたい方などのヒントになれば幸いです。
ASD・ADHDを自覚したきっかけ
大学は心理学科でしたので、在学中に発達障害に関する知識をある程度身につけました。
ただ、自分も当事者であるとは全く思ってなかったんです。
自分もちょっと発達的な側面はありそうだし、多少は困りごと理解してあげられそうだし、なんて理由から、支援する側に回ろうと思って臨床心理士を目指していたことがありました。
ところが、四年生の春にグレーか傾向ありかを聞きに病院に行ってみたところ、「ASDとADHDの傾向が非常に強いですね」と即断されました。
グレーどころか真っ黒だったんです。
大学で受けていた知能検査の結果や心理テストなどがあったので、わずか15分で確定診断が下されました。
当初は「ちょっと発達っぽいけど工夫して普通に近づけたらいいなぁ」とか考えていましたが、投薬治療をすすめられた時点で「これはもう“普通”にはなれない気がする」と悟りました。
根本的に変えられないなら、苦手を克服するより得意を伸ばそう――この意識転換が今の私の思考の基盤になっています。
Fラン卒とIQ120というギャップ
私は自他ともに認める「Fラン卒」です。
しかし、正直に言うと大学の偏差値やブランド力で見下されることはあまり気にしていません。
そんなことで笑う人間より「私」をしっかり見てくれる人間と関わる方がよっぽど大事なので。
それよりも「IQ120近いのにバイトすら続かない」現実をどう捉えるかが大きなテーマでした。
知能検査の内訳を見ればわかるのですが、たとえば言語IQが140、作業スピードが150と極端に高い一方で、記憶力が70あたりしかないなど、ものすごく偏りがあるのです。
文章作成や手作業のスピードは異常に速いのに、短期記憶が絶望的に弱い。
いつか別記事で解説しますが、知能や学校の教科以外にも能力のばらつきはとんでもないです。
こうしたアンバランスこそが、“IQ120なのにFラン、そしてバイトすら続かない”という矛盾を生む大きな要因なのだろうと感じています。
バイトが続かない3つの理由
1. ミスが多い(ADHD由来)
「ちょっとこれお願い」と言われた作業を忘れる、メモを取ろうとしても取ったこと自体を忘れる、一度に複数の指示が来ると処理しきれない――ADHD特有の短期記憶の弱さとマルチタスクの苦手意識から、どうしてもミスが頻発してしまいます。
2. 理由の説明が長すぎる(ASD由来)
ミスをしたときに「どんな対策をするか」を真っ先に考えてしまい、感情のケアをすっ飛ばして延々と理屈を説明してしまいます。
周囲からすれば「言い訳ばかりで謝罪がない」「反省していない」と見られ、結果的に人間関係が悪化するケースが多々ありました。
3. コミュニケーションのテンポが終末期
「思いついたことぜんぶ喋っちゃって、本当に言いたいことが伝わらない」状態がしょっちゅう起こります。
しかも私は相貌失認傾向があり、相手の表情が読めないため、相手が「もう黙ってほしい」と思っていてもそれを察知できません。(最近は表情以外のサインを頑張って読み取ろうと試行錯誤しています)
自分の話したいことが思い浮かんだ瞬間にガーッと早口でまくしたててしまい、気づいたら会話が成立していない――結果、周囲から疎まれてしまうのです。
4.嘘がつけない
どんな些細な、それこそ不味い料理を「美味しい」と言うことすらできないので、仕事に支障が出まくります。
数時間ぐらい賞味期限ずれてても良いじゃん、なんて言われた日には烈火のごとくキレ散らかして退職届けを叩きつけます。
お客さんにお世辞が言えず、意見を求められたら正直に自分の店の商品を「これそんな美味しくないですよ」とか言っちゃう。
これについてはこちらの記事で、どんなに特性がない人でも理解できるように書いてみたので、よろしければ併せてお読みください。
「謝る」より「理由を説明」してしまう思考回路
これは私にとって永遠の課題です。
普通の人は「まずは感情をケアしてほしい」「謝罪の言葉をかけてほしい」ことを求めているらしいのですが、私にとって謝罪とは「なぜ失敗したのか、次はどうやって防ぐかの宣言」でしかありませんでした。
ですから、悲しいかな“お詫び”というより、相手からは“言い訳”にしか聞こえないことが多かったようです。
ある職場で「いいから言い訳より先に謝れ」と怒鳴られ、ようやく「感情ケアが大事なんだ」という事実を教えられました。
正直、いまだに「感情ケアってまだ理解できないけど、最近は謝ってみてる」状態です。
自分でもぎこちないと思いますが、人間というのは「それでもいいから形だけでも先に謝るほうが平和に進む」生き物らしい、と学習しました。
苦手が際立つ職場、得意が輝く製造の現場
私の特性が唯一「仕事で役立ってるかも」と感じられたのは、ひたすら製造作業を行うバイトでした。
何を作るにしてもゲームのRTA(リアルタイムアタック)感覚でスピードを追求するのが好きだった私は、人の倍くらいのスピードでラッピングしたり、商品を組み立てたりできたのです。
当初は「え、普通じゃないの?」と思っていたほどで、みんなも当然同じくらい速くできるものだと思い込んでいました。
ところが、周囲にとっては相当な早業に見えたらしく、「即戦力」「えぐい」「神の手」といった言葉で褒められたこともあります。
でも逆に、周りの人がのんびり作業しているのを見ると「私ごときよりも遅い作業しかできない、しない奴なんて視界に入れたくない」というくらい気持ちが逸ってしまい、結果的にうまくいかなくなる場面もありました。
同じ速度で動けない・動かない人に苛立ってしまうのは、私自身も不本意ではあるのですが、なかなかコントロールが難しいところです。
リアルな気持ちとエピソード集
ここからは、私が実際にいろいろな方から受けた質問に、率直に答えた内容をまとめました。特性のズレがどんなふうに生活を困らせたり、逆に生かされたりしてきたかを垣間見ていただければと思います。
Q1. 「口では伝えられないけど、文章なら得意」ってどんな損得がありましたか?
A. 口頭だと相手の反応に合わせて瞬時に話を変えないといけませんが、私は表情を読み取れないため、多弁が止まらず一気に喋ってしまいがちです。
その結果、「で、何が言いたいの?」と怒られることもしばしば。
文章だと自分の思考を整理してから発信できるので、比較的相手に伝わりやすい形にまとめられます。
Q2. 短期記憶が苦手でやらかした大きな失敗は?
A. 飲食店バイト中、「これ後で冷蔵庫に入れておいて」と言われた食材をうっかり忘れて腐らせてしまったことがあります。
損害も大きく、後に「冷蔵保存の食材の保管をそもそも人に頼まない、人に頼むならその場でやらせる」というルールが誕生しました。
ある意味、職場の改善に貢献できたと考えるしかありません。
開き直っちゃダメなのは分かってます。はい。
Q3. ネット上で初対面の人に秒速ブロックされまくってたって話ガチ?
A. ガチもガチです。
一時期めちゃくちゃゲームでフレンドづくりを頑張っていたのですが、もう通話の初っ端でぶった切られてブロックされるなんてことも珍しくありませんでした。
こちらは完全に好意的で「こういう話はどう?」「あれ面白いよね?」と畳みかけてしまいがちだったのですが、相手はまったく興味を持てず、しかも私が空気を読めないため話続け、見切りをつけられてサッと離れてしまうんですね。
そもそも共通のゲームを遊ぶためにフレンドになったのだから、まずはゲームに関連する話をしろと過去の自分を叱りたいで。
ただ、それでも今は私みたいなのを(ある意味)面白いと思ってくれた数人に出会えて、一旦積極的なフレンドづくりは満足した感じです。
それでも私が見つけた“生きやすさ”の形
バイトが続かない、普通の職場になじめない、ネットですら人間関係がうまくいかない――そうした現実を突きつけられた結果、私は「自分の特性を受け入れて、自分に合った環境を作るしかない」と学びました。
A型就労支援に通ったときは、周りの人よりずっと早く仕事を終わらせても賃金が同じことにモヤモヤしましたが、その経験を通じて「自分だけの働き方」を真剣に考えるようになったのです。
試行錯誤の末、現在はフリーの働き方を模索しながら、文章作成やプログラミングといった“得意分野”に集中することにしました。
たとえ感情ケアが永遠に理解できないとしても、最低限のコミュニケーション術を身につけ、無理に集団に溶け込もうとするより自分が成果を出せる場所に注力したほうが、結果的に周囲にも迷惑をかけません。
最後に、一番大切だと思っているのは「自分を否定しないこと」です。
私は、どんなに悪い方向に尖っていたクソ人間時代ですら、「私みたいなのを面白いと思ってくれた数人」に出会えたし、自分の“飛び抜けた得意”を生かすことでモヤモヤや生きづらさが少しずつ緩和されてきました。
どんなに対人スキルがゴミカスな人間だとしても、自分の生きやすい環境を自分なりに作る権利はすべての人にあると信じています。
もし私と似たような境遇で悩んでいる方がいるなら、自分を無理に変えようとせず、できるところから前を向いてみてください。
私の経験が、その一助になれば幸いです。